SaaS・サブスクリプション型ビジネスにおけるアップセルの重要性と成功のポイント・事例

アップセルは、継続課金型のビジネスを成長させるために欠かせない戦術の一つ。効果的に実践することで中長期的な収益アップが期待できます。今回は、SaaS・サブスク型ビジネスにおいてアップセルを実現するポイントや事例を紹介します。

LTVの向上にはアップセルが有効

LTVの向上にはアップセルが有効

SaaS(Service as a Service)やサブスクリプション型のビジネスモデルは、顧客が継続的に商品・サービスを利用することで収益を獲得する仕組みです。

そのため、業績の指標としては「取引期間中に一人の顧客から獲得する収益の総額」を示すLTV(Life Time Value:顧客生涯価値)が重視されています。

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既存顧客がビジネス成長のカギ

LTVを最大化するためのカギとなるのが既存顧客です。従来の買い切り型のビジネスでは、新規顧客の獲得が重視される傾向があります。しかし、市場が成熟してニーズが多様化している昨今、新規開拓は容易ではありません。また、新規顧客の獲得コストは既存顧客を維持するより5倍かかると言われています。

そのような背景もあり、SaaS・サブスク型ビジネスでは既存顧客にアプローチする戦術が多く用いられています。その有効手段となるのがアップセルです。

そもそも、アップセルとは

アップセルとは、既存顧客により高額な商品、または関連する商品を購入してもらい、顧客単価を高める手法です。SaaS・サブスク型サービスでは、「ベーシックプランから上位プランへのアップグレード」が典型例です。

継続課金型のSaaS・サブスク型ビジネスは、買い切り型ビジネスより顧客と継続的な関係性を構築しやすいという特徴があります。そのためアップセルを実現しやすく、効率的な収益向上が期待できます。

アップセル戦略の基礎知識については以下の記事を参考にしてください。

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SaaS・サブスクでアップセルを成功させるポイント3つ

SaaS・サブスクでアップセルを成功させるポイント3つ

SaaS・サブスク型ビジネスでアップセルを実現するには、ターゲット選定やプライシングなどに気を配る必要があります。特にチェックしておきたいのは以下の3つのポイントです。

ポイント1:ロイヤリティの高い既存顧客を抽出

アップセルが成功しやすいのは、自社商品・サービスに対してロイヤリティ(愛着度や信頼度)の高い顧客です。ロイヤリティが低い顧客にアップセルを持ち掛けると、押し売りなどネガティブな印象を持たれる可能性があります。

そのためアップセルを仕掛ける際は、まず既存顧客をロイヤリティの高低で選別することが重要です。CRMやSFAなどの顧客管理システムを活用すれば、既存顧客の状況・ニーズを分析し、ロイヤリティの高い顧客を抽出しやすいです。NPS®などの顧客アンケートを実施してターゲットを選別するのも一案です。

加えて、日頃から意識しておきたいのは見込み顧客の育成(リードナーチャリング)です。リードに段階的・継続的にアプローチをして信頼関係を築くことで、顧客ロイヤリティの向上が見込めます。

ポイント2:適切なプライシング

アップセルの成功率を高めるには、商品・サービスのプライシングも重要なポイントです。
従来のビジネスモデルとは異なり、SaaS・サブスクのような継続課金型ビジネスは料金体系も特徴的です。代表的なプライシングモデルとしては以下の4タイプが挙げられます。

定額プライシング 1つのプロダクトに1つの料金を設定するモデル。シンプルな料金体系なのでユーザーが理解・意思決定しやすい。ただし、ユーザー層に合わせたプランの提案ができないためロイヤリティの醸成は難しい
使用量ベースプライシング
(従量課金型)
使用量に応じて課金するモデル。初回購入のハードルが低くユーザーの納得を得やすいものの、収益予測が難しい
機能ベースプライシング
(階層型)
機能やサービスの範囲に応じて複数の料金プランを用意するモデル。ユーザーはニーズに応じて最適なプランを選べるが、検討時に迷いが生じやすい
フリーミアムモデル 基本機能・サービスを無料で提供するモデル。新規ユーザーを獲得しやすいものの、有料プランへアップグレードさせるハードルは高く、収益化が難しい

従量課金型や階層型は、アップセル戦略を実践している多くのSaaS・サブスク企業に採用されており、フリーミアムモデルと組み合わせるパターンも多いです。とはいえ、やり方を誤ると購入ハードルが高くなることがあるため、プラン設計の際は以下のコツ・注意点を参考にしてください。

・期間限定の無料体験サービスを設ける
・段階的な課金の基準、プラン間の料金の違いを明快にする
・わかりやすい料金表を作成する
・料金プランは3つ程度が望ましい
・インセンティブを付与する

これらは一例ですが、上記を意識すれば、顧客が迷いにくく納得して選択しやすいプラン体系を構築できるでしょう。

ポイント3:カスタマーサクセスの体制整備

継続課金型のビジネスでは、カスタマーサクセスによって顧客との関係性を強化する取り組みが重要です。

カスタマーサクセスとは、「顧客の成功(業績アップや事業の目標達成)」を後押しする活動です。顧客からの問合せやクレームに対応するカスタマーサポートとは異なり、顧客のビジネスゴールを理解したうえで能動的にアプローチをし、自社商品・サービスの継続利用を促します。

自社にカスタマーサクセスの体制が整っていれば、さまざまな働きかけによって顧客ロイヤリティを醸成しやすくなり、ひいてはアップセルの成功率・LTVの向上が見込めます。

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アップセル戦略が巧みなSaaS企業の事例

アップセル戦略が巧みなSaaS企業の事例

さいごに、効果的なアップセル戦略を実践しているSaaS企業の事例を3つ紹介します。

Dropbox

オンラインストレージサービスの「Dropbox」は、個人ユーザー向けのベーシックプランに2GBまで無料で使用できるフリーミアムモデルを採用。ディスク領域が少なくなってきたタイミングで有料のプロフェッショナルプランへのアップグレードを勧めるメッセージを画面上に表示し、アップセルへと誘導しています。表示は消すことができるため、ユーザーに押しつけがましさを感じさせません。

また、Dropboxのサービスを知人に紹介すると紹介者のディスク領域がアップする「紹介キャンペーン」もアップセルにつながる取り組みです。キャンペーンに参加することで既存ユーザーの顧客ロイヤリティが高まり、仕事などでつながりのある人同士のユーザーの輪が大きくなれば、ビジネスプランへアップグレードする可能性も高まります。

Spotify

音楽ストリーミングサービス「Spotify」は、無料会員と有料会員で「スキップ(曲送り)」ができる曲数に差をつけ、アップセルに利用しています。具体的には、有料会員の場合は無制限にスキップできるのに対し、無料会員は「1時間に6曲まで」と制限を設定。そして、6曲スキップしたタイミングで、プレミアムプランへのアップグレードを勧めるメッセージを表示します。

スキップ操作の流れでアップセルに誘導されるため、ユーザーはアップグレードのメリットを理解しやすいです。スキップ機能を重視しているユーザーであれば、「スキップしたいのにできない」と不満を感じたタイミングで背中を押されることで行動に移しやすいでしょう。

Slack

ビジネスチャットツール「Slack」では、無料のフリープランでもメッセージのやりとりや1対1の音声・ビデオ通話などを利用できますが、アクセス可能なメッセージ履歴は1万件までに制限。

メッセージアーカイブが1万件を超えると、履歴を無制限で確認できる有料プランを紹介するメッセージが表示されます。ここではアップグレードによるメリットを端的に伝えるに留め、上位プランのアピールは控えめです。

また、料金表でプランごとの機能の違いがわかりやすくまとめられている点も、ユーザーの選択を後押ししています。

アップセル戦略がうまくいっているSaaS・サブスクは、ユーザー心理に配慮しながら巧みに誘導しています。

継続的な収益獲得にアップセル戦略を取り入れよう

SaaS・サブスク型ビジネスを軌道に乗せるには、カスタマーサクセスの視点を持ち、顧客との関係性を強化する取り組みが重要です。そのうえで既存顧客のニーズをふまえたアップセル戦略を仕掛けることで、継続的な収益アップが見込めます。

ご紹介したポイントを参考にしながら、効果的なアップセル戦略を実践してください。

※ネット・プロモーター、ネット・プロモーター・システム、NPS、そして NPS 関連で使用されている顔文字は、ベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、サトメトリックス・システムズの登録商標です。

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