顧客インサイトを探るエスノグラフィとは|活用事例と実施の流れ

エスノグラフィは、ユーザーの行動観察を通して顧客インサイトや顕在化する前のニーズを探り当てることができる調査手法です。イノベーション創出につながるなど、ビジネスチャンスを広げられるアプローチ方法として注目されています。本記事では、エスノグラフィのメリットと成功事例、調査の実施方法を解説します。

顧客インサイトを探るエスノグラフィ(観察調査)とは

エスノグラフィは定性調査の一つです。どのような調査手法なのか、詳しく見ていきましょう。

エスノグラフィとは

エスノグラフィとは、調査対象者の実際の生活環境や行動を観察して記録する調査手法のことです。もともとは民族学などの研究分野で用いられてきたフィールドワークですが、近年はマーケティングや人材・組織マネジメントなどのビジネス分野でも多く活用されています。

エスノグラフィがインタビュー調査など他の定性調査と大きく異なる点は、観察者として対象者と行動をともにすることで、普段の生活環境や無意識に行っている言動からファインディング(気づき・発見)を得られることです。まだ顕在化していないニーズや課題を発見できることから、商品開発やカスタマージャーニーマップの作成、顧客体験の向上などに幅広く活用されています。

エスノグラフィで発見できる顧客インサイトとは

顧客インサイトとは、顧客行動の動機となる本質的な欲求のことです。顧客の購買行動は、意識下で生じている潜在的なニーズや価値観が引き金になっていることが往々にしてあるため、顧客インサイトの理解は重要なテーマです。エスノグラフィを活用することで、次のような発見が期待できます。

・商品・サービスの利用に際して、自社が想定していた使い方ではなく独自に創意工夫をしているなどの実態から、顕在化していないニーズやベネフィットを発見できる
・無意識の行動・表現などから、顧客自身も認識していない生活価値観を発見できる
・普段の生活環境が商品・サービスの購入にどのような影響を与えているのかを発見できる

エスノグラフィを活用するメリット

エスノグラフィを活用するメリットは、大きく次の2つに整理できます。

実態に即した情報を得られる

定量調査や他の定性調査でも利用実態のデータを得ることはできますが、いずれも対象者が自ら回答することになるため、「無意識のうちに合理的な回答をしてしまう」「本音を隠してしまう」といったバイアスが起こり得ます。

エスノグラフィではありのままの姿を観察するため、より実態に即した情報を得られる点がメリットです。また、「なぜその行動に至ったのか」背景や価値観を理解しやすいこともエスノグラフィの利点です。

ライフスタイルや嗜好が多様化している今、顧客の実態を精緻に捉えることは競争優位性を生むための第一歩といえるでしょう。自社が想定していなかった利用実態が明らかになれば、新商品開発や既存商品の改善に大いに役立ちます。

新たなニーズや仮説を発見できる

顕在化している課題や満足・不満の要因は言葉として表現できますが、普段の慣れ親しんだ生活の中で、課題自体が表面化していないケースは多分にあります。

エスノグラフィによってまだ認識されていない課題を発見し、他社に先駆けてアプローチすることができれば、ビジネスチャンスが広がります。顧客の無意識の行動から新たなニーズや仮説を導き出せる点は、エスノグラフィの大きなメリットです。

エスノグラフィを活用した成功事例

エスノグラフィを活用して成功している企業の事例を紹介します。

花王

花王では、エスノグラフィを用いて「アンチエイジングに関する消費者の考え方や行動理由」についての理解を深め、商品開発・マーケティングに活かすという取り組みを実施しました。

調査にあたってはカメラやビデオでの撮影も行い、言葉だけではわからない動作や口調といった反応を五感でつかめるように工夫したといいます。この調査によって、アンチエイジングにおける共通心理を探り当てることに成功しています。

PARC

PARCはゼロックスの子会社で、シリコンバレーに本拠地を置くオープンイノベーション企業です。早くからエスノグラフィを取り入れ、コピー機の緑色のスタートボタンはエスノグラフィから生まれたアイデアということがよく知られています。

同社では、この取り組みが成功したことを機に、製品開発プロジェクトにエスノグラフィを取り入れるようになったといいます。また、人と社会への深い洞察によってイノベーションのリスクを最小限にマネジメントできると表現し、エスノグラフィを多様な場面で活用しながら新しいコンセプトを数々生み出しています。

Heinz(ハインツ)

Heinzのケチャップの容器が、エスノグラフィによって開発されたものであることは有名です。調査では、瓶入りケチャップの残りが少なくなると逆さまにして底を叩く人が多いことを発見。また、ケチャップが多く出すぎてしまったり飛び散ってしまったりするため、多くの消費者が容器を逆さまにして冷蔵庫に保管していることも判明しました。

そこで同社では、キャップを下に付けて逆さまの形態で保管できるボトル型容器を開発しました。斬新なアイデアが話題となり、売上低迷期を乗り越えるという成果を得られています。

富士通

ICTを活用したソリューションを提供している富士通では、プロジェクトを成功に導く上ではメンバー全員の共有ビジョンが重要であるとし、暗黙的な視点や思いを引き出す手法としてエスノグラフィを活用しています。これにより、権限の強さや発言力の強さが影響して少数意見が埋もれてしまいがちという課題を解決し、プロジェクトを進化させています。

さらに、この手法を応用して発注側・請負側の意思疎通をスムーズにし、改善施策の提案に成功しています。BtoBにおけるエスノグラフィの好事例といえるでしょう。

エスノグラフィの進め方とポイント 

エスノグラフィの実施方法とポイントを4ステップに分けて見ていきましょう。

1.全体計画・調査設計

まずは全体計画の策定と調査設計を行います。以下の点を明確に決めます。

・調査の目的
・調査結果の活用方法
・調査で観察する事項
・調査期間
・調査対象者の人数
・調査場所
・利用する機材(カメラ・ビデオなど) 

ポイントは、調査目的と活用方法を具体的に決めることです。

たとえば、商品の使い方から新たな課題を発見して改善のアイデアを開発に活かしたい場合と、共通する顧客インサイトを見つけて新商品開発に活かしたい場合では、調査対象者の要件や見るべきポイントが変わります。エスノグラフィの成功の要となるため、しっかり検討する必要があります。

2.調査対象者の要件を決定

エスノグラフィでは、「どのような人を観察すべきか」調査対象者の要件を精査することが極めて重要です。新たな発見・気づきを得られるようにするため、エクストリームユーザー(極端なユーザー)に設定するケースが多くなっています。これは、一般的なユーザーの行動・価値観との違いを知ることで、顧客インサイトを探り当てやすくするためです。

花王の例を挙げると、強い思い入れがある人とアンチユーザーの両極を観察するという工夫によって、結論を導き出すことに成功しています。このほか、利用頻度や量が極端に多い・少ない、一般的ではない使い方をしているといった極端なユーザーを設定するケースもあります。

期待する観察結果を得られるかという観点から要件を決め、続いて対象者をリクルートします。撮影する場合は、あらかじめ許諾を得ておくようにしましょう。

3.実査

調査対象者の自宅などに訪問し、普段通りの環境で行動観察します。この際のポイントは、ありのままの姿をフラットな視点で捉えるようにすることです。調査員の意図が入り込んでしまうと、何気ない行動に潜んでいる大切なヒントを取りこぼしてしまう可能性があるからです。多様な視点を持てるようにするため、複数名の調査員で実施するケースが多くなっています。

また、観察調査をしながらインタビューを行うと、対象者が意識してしまい普段と違う行動になる可能性があるため注意しましょう。インタビュー調査を実施したい場合は、行動観察の終了後に行います。

4.結果分析・レポート

調査が終了したら、結果を振り返り分析します。撮影物やメモなどをもとに、チーム体制で多角的に検証します。調査対象者ごとの行動などを事実ベースで洗い出したあと、「なぜこの行動をとったのか」を議論しながら体系的に整理していく流れが一般的です。カードに情報を書いて貼り出していく、KJ法のフレームワークなどを取り入れるのもおすすめです。

分析結果のレポートでは、得られたファインディングとその根拠がわかりやすい体裁になるよう意識します。たとえば、「○○というインサイトがある」という結論において、そこに紐づく行動・事象のファクト、それが意味することを体系的に整理するとよいでしょう。

エスノグラフィでビジネスチャンスの種を見つけよう

エスノグラフィは、顧客インサイトを探り当てるための有効な手法です。しかし、調査設計や実査、分析にはノウハウが必要となるため、自社のみで対応するのが難しい場合は専門の事業者に相談することをおすすめします。他社に先駆けてビジネスチャンスの種を見つける上でも、ぜひうまく活用してください。

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