カスタマージャーニーとは|マップの作り方から事例まで【B2C・B2B】

顧客とのタッチポイントが多様化している現在、効果的なアプローチを検討するうえでカスタマージャーニーの有効性を認識している企業が増えています。ここでは、B2C・B2Bそれぞれのマップの作り方や失敗しないためのポイント、作成事例を紹介します。

カスタマージャーニーとは

カスタマージャーニーとは

カスタマージャーニーは、直訳すると「顧客の旅」という意味です。顧客は、製品やサービスを認知してから購入・利用、評価に至るまで、さまざまな行動や思考・感情の変化を見せます。この一連の流れを旅にたとえて、カスタマージャーニーと呼んでいます。顧客とのタッチポイントを整理し、変化の過程を見える化したものがカスタマージャーニーマップです。

ICTの進化にともない、顧客は複数のチャネルを横断しながら消費行動をとるようになりました。同時にマーケターには、顧客の行動・心理をより的確に把握することが求められています。カスタマージャーニーマップは、複雑化するマーケティング活動において最適な施策を検討するための手法として活用されています。

カスタマージャーニーが効果的な場面

カスタマージャーニーが効果的な場面

カスタマージャーニーが効果を発揮する場面とはどのようなケースか、具体的に見ていきましょう。

1.筋の良い改善施策をつくりたい

自社の製品・サービスがいつ・どこで認知され、どんな理由から購入・利用に至るのかを精度高く把握することは、改善施策を検討するうえで非常に重要です。しかし、いろいろな分析ツールを用いたとしても、部分的な課題を洗い出すことにとどまります。そのため、それぞれのタッチポイントでの改善策を講じることはできても、顧客体験の流れを俯瞰して施策を打てないという課題にぶつかります。

カスタマージャーニーでは顧客の一連の行動・心理を時系列に並べて整理するため、どんなタイミングでどんな施策が有効か、筋の良い改善施策を判断しやすくなります。

2.組織内の共通認識をつくりたい

マーケティング施策を展開するときは、組織を横断したチーム編成で進めるケースが少なくありません。しかし、開発部門や営業部門、カスタマーサービスといった各部門では、それぞれに見えている課題が異なるため、施策への理解が進まないことがあります。

カスタマージャーニーは、組織横断での共通認識を醸成したい場合にも有効です。部門ごとの部分最適に陥ることを防ぎ、プロジェクトチームとしての意思決定スピードを上げやすくなります。

3.顧客視点から自社の強み・弱みを整理したい

自社の製品・サービスに対する顧客の評価というのは、競合比較のうえで成り立っています。つまり、自社の強み・弱みを正確に把握するには、顧客の目線にたって競合と自社とを比較する観点も必要になるわけです。しかし、マーケティング活動では、得てして自社本位の視点になりがちです。顧客の視点を客観的に捉えるうえでも、カスタマージャーニーが役立ちます。

4.MAツールを効果的に活用したい

B2C、B2B問わず、MAツールを活用して顧客とのコミュニケーションを効率化している企業が増えました。MAツールには、見込み客の獲得や育成(ナーチャリング)、顧客管理などいろいろな機能を備えたものがあります。

しかし、これを効果的に運用するには、顧客とのコミュニケーションシナリオが必要になります。このシナリオを作る際に役立つのがカスタマージャーニーです。マップを作成することで、より有効的にMAツールを活用できるようになります。

カスタマージャーニーマップ~基本の作り方5ステップ【B2C・B2B】

カスタマージャーニーマップ~基本の作り方5ステップ【B2C・B2B】

マップの作成手順はB2C・B2Bともに同様ですが、整理すべき事項で異なる部分が出てくるため注意が必要です。

B2Cは個人の行動プロセスを見ていきますが、B2Bでは複数の人が関わる場合が多く、意思決定までの手続きや流れが違います。ここでは、B2CとB2Bでどこが異なるのか、違いにも触れながら基本となる作成方法を説明していきます。

カスタマージャーニーマップimg

1.ペルソナ設定

まずは対象となる顧客を決めて、カスタマージャーニーマップの主人公になるペルソナを設定します。ペルソナが不明瞭だとマッピングするときに焦点を絞れなくなるため、丁寧に作り込みましょう。ペルソナを作るときの項目は、B2CとB2Bで異なります。以下を参考にしてください。

B2Cのペルソナ

B2Cのペルソナでは、個人の人格を明らかにしていきます。

▼B2Cの項目例

属性
性別
年齢
職業
年収
学歴
居住地
家族構成
ライフスタイル
趣味や関心の対象
休日の過ごし方
悩み
好きなテレビ番組や雑誌
行動特性
消費の傾向
貯蓄の傾向
情報収集の傾向

B2Bのペルソナ

B2Bでは、対象になる企業像とキーパーソンとなる個人のペルソナを用意します。ペルソナを作るときは、ビジネスにおける人格を明らかにするよう意識します。

▼B2B項目例(企業像)

企業
業種
所在地
従業員規模
売上規模
事業内容・商材
企業風土
目標・ミッション
事業課題・トレンド

▼B2B項目例(キーパーソンのペルソナ)

担当者
所属部署
役職・権限
業務内容
目標・ミッション
部署または業務上の課題
リテラシー
情報収集の傾向

2.ゴール設定

次に、カスタマージャーニーマップのゴールを明確にします。ゴール設定は、マップを作成する目的となるものです。たとえば「初めての購入・利用」「リピート購入・利用」「購入・利用後の満足度」というように、ゴールの置き方が変わると収集すべき情報や施策も変わってきます。

とくにB2Bの場合は、製品・サービスを導入して終わりではなく、活用した結果どのような成果を得られたのかを問われるケースが多くなります。この点を踏まえて、適切にゴールを決めることが重要です。

3.フレーム作成

マップの骨格となるフレームを作成します。フレームの作り方には、とくに決まりはありません。よく使われている基本パターンでは横軸にプロセスを、縦軸に顧客の状態を示す項目を作ります。

横軸の作り方事例

横軸では、顧客の行動プロセスをフェーズに分けて時系列で整理していきます。作成手順は以下の通りです。

①ペルソナの行動を洗い出す
②フェーズごとに分類する
③時間の流れに沿って並べる

B2Cの購買プロセスでは、「認知」「興味・関心」「情報収集」「比較検討」「購入」「評価」「拡散」「リピート」といった観点から、フェーズを分けていくのが一般的です。B2Bの場合は上記にくわえ、社内の稟議・決裁、利用開始後のアフターフォローなども視野に入れる必要があります。

縦軸の作り方事例

縦軸では、横軸で作ったフェーズごとに顧客がどんな行動をとり、どんな思考・感情を持っているのか整理していきます。一般に設定されることが多いのは、以下の項目です。マップの目的を果たすにはどんな項目が必要となるのか、よく考えて決めます。

・チャネル(媒体)
・タッチポイント(製品・サービスとの接点)
・顧客の行動
・顧客の思考
・顧客の感情
・自社の課題
・施策

4.顧客の情報収集

マップを埋めるために必要となる顧客情報を収集します。分析データなどからの定量情報、インタビューやアンケート調査などを利用した定性情報の双方を収集するのが望ましい形です。B2Bの場合は、営業部門の商談例やサポート部門の対応履歴など、各部門から情報を集めるようにします。

以下も参考にしてください。

効果的なアンケート調査とは|調査の種類・選び方・流れを解説

5.マッピング

最後に、収集した情報をもとにマップを埋めていきます。このとき、視点の偏りが出ないよう、部署を横断したプロジェクトチームで作業にあたるようにします。ワークショップ形式で進めるなど、多様な意見やアイデアが出やすい環境で作成することも重要なポイントです。

ひと通りマッピングしたら、次に内容をブラッシュアップする工程をくわえて完成度を高めます。より活用度の高いカスタマージャーニーマップを目指すなら、グラフやイラストを利用するなどして、見た目のわかりやすさにも気を配るとよいでしょう。

カスタマージャーニーマップの事例

カスタマージャニーマップの事例

ここでは、カスタマージャーニーマップの作成事例を2つ紹介します。

中部国際空港セントレアの事例

コンテンツ制作の改善ポイントを明確にする目的で、カスタマージャーニーマップを作成した事例です。実際の空港利用者にインタビューするなど、リアルな行動や思考・感情が反映されています。

ペルソナは、週末に遊ぶ場所を検討しているカップルです。縦軸にインサイトの項目を設けて、利用者が真に求めていることを分析したうえで改善につなげています。

カスタマージャーニーマップの作成事例1

出典:Customer Experience×コンテンツ vol.1|株式会社のれん

パソナグループの事例

新卒採用のためのWebサイトリニューアルに向けて、カスタマージャーニーマップを作った事例です。「就活スタートから入社決定まで」を、ターゲット像と一致する学生数名がワークショップ形式で作成しました。

学生が入社を決めるまでに必要とするタッチポイントは複数あることがわかり、リニューアルの要件が明確になったという成果を得られています。

カスタマージャーニーマップの作成事例2

出典:2時間で作るカスタマージャーニーマップ―実例とともに考える新しい「おもてなし」のカタチ

カスタマージャーニーマップ作成で失敗する4つの原因

## カスタマージャーニーマップ作成で失敗する4つの原因

メリットを理解して取り組み始めたものの、うまくいかないというケースがあります。マップの作成や活用に失敗する原因は、主に以下の4つです。

1.願望や思い込みで作ってしまう

マップを作るときに陥りやすいのは、自社にとって都合のよいストーリーを描いてしまうことです。「顧客のニーズはここにあるはず」「顧客はこう動くはず」「自社への関心は高いはず」といった願望や思い込みで作ってしまうと、効果的な施策を考えられなくなります。ファクトをベースにした分析になっているか、各部門の多様な視点から検証されているかなど、チェックポイントを定めて進めていく必要があります。

2.複雑すぎて施策を作れない

精度の高いマップを作ろうとするあまり、あれもこれも網羅しようとして収拾がつかなくなってしまうことがあります。たとえば数十個もの課題が出てきたときに、そのままマップに落とし込んでしまうと施策の優先順位をつけられなくなります。また、フェーズの分解が細かすぎて施策が複雑になり、対応できないというケースも見られます。

完璧なマップに仕上げることよりも、まずは使い勝手を考えてシンプルな形を目指すと失敗が少なくなります。必要に応じてブラッシュアップしていくと決めておけば、取り組むハードルも下がります。

3.リサーチに偏りがある

カスタマージャーニーマップでは、顧客の情報をさまざまな角度から検証する必要があるため、情報収集が肝になります。各種定量データのほか、アンケート調査やインタビューからリアルな声を集めるなど、リサーチに偏りが出ないよう考慮することも大切です。

4.アップデートしていない

変化のスピードが激しい現代では、一年経てば古い情報になってしまいます。マップは一度完成させたら終わりではなく、半年や一年といったペースでアップデートしていくものと心得ましょう。新しいマップをスムーズに作れるよう、体制を整えておくことも必要です。

「使えるマップ」を作成するには

顧客の行動プロセスが多様になっている現在、カスタマージャーニーは効果的なアプローチを実現するうえで必須の手法となりつつあります。しかし一方では、労力とコストをかけてマップを作ったものの、「新しい発見がない」といった声が上がることもあります。精度が高く、使えるマップを作成するには、顧客の情報収集がスタート地点となります。質の高いCXを提供するためにも、調査をしっかり行ったうえでカスタマージャーニーをうまく活用することをおすすめします。

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