CXガバナンスはなぜ必要か|CX向上に必要な組織的な変革とは
CX(顧客体験)の向上は、今や多くの企業が成長戦略の要と位置付けて取り組んでいます。しかし、組織構造上の課題を挙げる企業も多く、思うような成果を出せないという声もあがります。ここでは、CX向上に必要な組織づくりやCXガバナンスの必要性について解説していきます。
陥りがちな「CX向上の間違い」とは
顧客に対し、より良い体験を提供することで自社の競争優位を確立し、収益性を高めていこうとするのがCX向上を目指す目的です。多くの企業がその重要性を認識して取り組みが進んでいるものの、そこには陥りがちな間違いも潜んでいます。詳しく見ていきましょう。
顧客にとっての「価値」が不明瞭
CX向上を目指す取り組みの中で、単に顧客への心配りを徹底することがCX向上施策と捉えているケースがあります。顧客をもてなす姿勢を持つことも大切な要素ですが、顧客体験の向上を目指すというときには、それだけでは十分とはいえません。
また、よかれと思って取り組んだことが、顧客によっては逆効果になっているというケースもあります。これは、顧客のニーズを理解しないまま、自社の視点で判断していることに起因します。CX向上は、あくまでも顧客が感じる価値を創出・提供することであり、自社の見解で進めるものではないことに注意する必要があります。
顧客が体験によって得られる価値は、以下の5つに分類できるとされています。
●感覚的経験価値:五感によって得られる価値
●情緒的経験価値:感情に訴えかけることで生まれる価値
●創造的経験価値:好奇心を満たすことで得られる価値
●肉体・ライフスタイル的経験価値:行動や生活に変化をもたらす価値
●準拠集団・社会的経験価値:帰属意識を満たすことで生まれる価値
このように、CX向上を考えるときは、顧客にとってどのような価値があるのかを明確にすることが重要です。
施策が顧客の「期待」を超えていない
顧客体験が向上するのは、顧客の期待値よりも上回っている場合でです。したがって、顧客の不満を解消するだけでは、いわばマイナスをゼロにする取り組みでしかなく、CX向上の最終的なゴールではないといえるでしょう。
CX向上は、顧客の潜在的なニーズもキャッチアップしながら、顧客ロイヤルティの向上を目指す取り組みです。サービス水準を引き上げるという観点だけでなく、顧客の期待を超える価値を提供するという観点が重要になります。
顧客体験を「一連の流れ」で見ていない
CX向上の取り組みで多く見られるのが、部門ごとに施策を実行しているというケースです。たとえば、製造・接客・配送・コールセンターというように、各部門でそれぞれの課題を洗い出して施策を講じている企業は多いでしょう。
しかし顧客からすると、これらの体験は一連のものであり、それぞれの部門ごとに評価をしているわけではありません。実際のケースとしても、たとえば接客の段階では満足していたのに、配送部門に情報が連携されておらず全体の満足度が下がってしまうことがあります。
このように、部門と部門とが接続されるところで問題が生じているケースは少なくありません。こうした問題が起きるのは、部門ごとの最適化を目指した取り組みは進んでいるものの、顧客体験の全体像を一連の流れとして見ていないことが要因といえます。
CX向上に求められる「CXガバナンス」とは
CX向上に取り組む中で、多くの企業がつまずいてしまうのが組織体制の作り方です。まずは、昨今注目される「CXガバナンス」について見ていきましょう。
CXガバナンスが求められる理由
CXガバナンスとは、部門を横断したCXの管理を実現するための仕組みです。経営リスクを未然に防止し、管理するための仕組みはコーポレートガバナンスといわれますが、CXガバナンスもこれと同様で、CX推進における管理・監督を強化する役割となります。
具体的には、CX向上における部門を超えた共通基準の設定、プロセス管理などがあります。CXガバナンスが求められる背景には、部門最適化が進んだ結果、弊害が生じていることが挙げられます。
たとえば、部門ごとに見ると一定の効果が上げられているにもかかわらず、顧客ロイヤルティが向上しないというケースがあります。この問題を解消しようと思っても、それぞれの部門で施策の重要度や評価基準などが異なっているため、立ち行かなくなることも珍しくありません。
そのため、効率的な運用とリスク回避の観点から、CXガバナンスの必要性が注目を集めているのです。
CXガバナンスによる効果
CXガバナンスにより期待できる効果は、次のように整理できます。
●各部門の施策が顧客体験にどのような影響を与えているのかを可視化できる
●部門横断の共通ルールが作られるため連携体制を作りやすい
●企業やブランドイメージにそぐわない顧客体験が提供されないよう統制できる
CXガバナンスに必要な組織づくりとは
CXガバナンスを実現するには、どのような組織づくりをしなければならないのでしょうか。現状の問題点を踏まえ、求められる組織体制について見ていきます。
現在の組織構造における問題点
多くの企業では、各部門における最適化・高度化を目指した組織づくりが進んでいます。そのため、部門最適を重視したプロセスやITツールが活用され、仕組み化がなされているのが現状です。
しかしCX向上に取り組むうえでは、こうした分断された組織構造により、部門間の連携を取りにくいという問題を引き起こしています。また、CX向上にはEX(従業員体験)の向上が密接にかかわるという点も注視しなくてはなりません。
従業員のモチベーションが低ければ、顧客への対応品質に影響が出てしまう可能性があります。そのため、部門間連携においては顧客と直接的にかかわる部署だけでなく、人事部門などとも協働する必要があるのです。組織一体となってCXを向上できる基盤ができている企業は、まだまだ多くありません。この点は、現状の大きな課題といえるでしょう。
部門横断による一貫した管理体制が必要
本来、顧客体験の向上は、事業戦略やブランド戦略と同じ方向に進まなくてはならないものです。部門ごとにばらばらの方針を掲げて運用してしまうと、その効果が限定的なものになったり、リスクを抱えてしまったりというデメリットが生まれます。
そのため、各部門がシームレスに連携できる仕組みを作ると同時に、部門横断で一貫した管理ができる体制を作る必要があるのです。
CXを高めるために必要な組織的な変革とは
CX向上を目指すうえでは、どのような組織的な変革が求められるのか、ポイントとなることを見ていきましょう。
CX目標と意思決定の明確化
CX向上を推進するうえでは、最終的にどのような価値を提供したいのか、共通のゴールを組織全体で持つことが重要です。そのため、経営層と現場とが一体となり、同じ目標を追いかける体制を作る必要があります。また、複数の部門が同じ目線で意思決定ができるよう、基準を整理し、意思決定プロセスの最適化を図ることが重要になります。
部門横断のCXマネジメント
部門間のサービスがシームレスに連携できれば、顧客体験の向上につながります。また、部門間での情報連携がスムーズになる仕組みを構築することで、組織が一体となってCX向上を目指せるようになります。
こうした体制を実現するには、部門横断のCXマネジメントができる組織を作る必要があります。CXを推進できるリーダーを中心に、連携できる体制を整えていくのも良い方法です。
デジタルツールを活用した改善サイクルの効率化
顧客ニーズが多様化している今、CX向上施策にはデータの活用が必須となっています。同時に、データを利用しながらPDCAサイクルをいかに高速化できるかが競争力の鍵を握っています。デジタルツールを活用した改善サイクルの構築は、CX向上を目指す組織において必須の取り組みといえます。
組織文化としての定着
CX向上は、特定の部署や担当者が取り組むだけでは成功しません。従業員全員がCX向上の意味を理解し、自律的に行動し、組織文化として定着することをゴールに進めていくことが大切です。
そのためには、まず適切なKPIの設定や評価制度の構築といった仕組み化が求められます。また、従業員のスキルを高めるトレーニングや、モチベーションアップにつながる施策など、企業として従業員を支援する仕組みも準備する必要があるでしょう。
CX向上には組織の連携が不可欠
顧客体験の向上は、タッチポイントごとの施策を磨けばよいという簡単なものではないことに、多くの企業が気づき始めています。CX向上のリターンは非常に大きいものですが、それがゆえに、全社的にその重要性を理解し、連携しながら推進する必要があるのです。
現状の組織構造を変革しなければ立ち行かないという課題にぶつかっている企業も少なくないでしょう。本記事が、方向性を検討するうえで参考になれば幸いです。